最近、開発請負の相談の中で、次のような話が出てくることがあります。
これまで使っていた既存ソフトが販売終了になった。
サポートも終了するため、同じような業務ができる代替ツールを作れないか。
Excel VBA、Google Apps Script、小型のWebアプリなどで業務改善ツールを作っていると、こうした「既存ソフトの置き換え」に近い相談は今後も増えそうだと感じます。
ただし、原因を「生成AIで既存ソフトが不要になった」と単純化するのは危険です。実際には、ソフトウェア会社側の事業継続、古い業務ソフトのレガシーシステム化、WindowsやOfficeの更新、市販ソフトでは合わない現場事情など、複数の背景が重なっていると考えた方が自然です。

結論: AIだけではなく複数の背景が重なっている
既存ソフトの代替開発依頼が増えている背景には、主に次の要因があります。
- ソフトウェア会社や小規模IT企業の事業継続が難しくなるケースがある
- 古い業務ソフトやレガシーシステムが、現在の業務や環境に合わなくなっている
- Windows、Office、Access Runtime、プリンタードライバなど周辺環境が更新される
- 生成AIによって、ソフトウェアに対する価格感や期待値が変わっている
- 汎用的なSaaSや市販ソフトでは、現場独自の業務に合わないことがある
つまり、これは「AIが既存ソフトを不要にした」という一つの話ではありません。
保守終了、環境更新、人手不足、価格転嫁の難しさ、レガシー化、AIによる競争環境の変化が重なり、これまで使い続けてきた業務ソフトを見直すタイミングが増えている、と捉える方が現実に近いです。
小規模ソフト会社の事業継続が難しくなるケース
公開情報を見ると、情報通信業やソフトウェア業の倒産・廃業に関する動きも無視できません。
東京商工リサーチは、2024年の情報通信業の倒産が425件となり、11年ぶりに400件を超えたこと、ソフトウェア業がその半数以上を占めたことを発表しています。
帝国データバンクの発表でも、ソフト受託開発業とパッケージソフトウェア業を合わせたソフトウェア業の倒産件数が、2025年度の2月までで195件発生したとされています。
ここで大事なのは、ソフトウェア需要がなくなっているわけではない点です。むしろ需要がある一方で、次のような要因により、小規模事業者ほど負担が重くなりやすいと考えられます。
- 人件費の高騰
- 慢性的な人手不足
- 価格転嫁の難しさ
- パッケージソフトの収益化までの期間の長さ
- 小規模事業者の資金繰り悪化
利用者側から見ると、開発元の事情が直接見えるとは限りません。しかし、販売終了、保守終了、問い合わせ先の縮小、バージョンアップ停止という形で影響が出ることがあります。
その結果として、「今使っているソフトと同じようなことができる代替ツールを作りたい」という相談につながります。
古い業務ソフトは環境更新のタイミングで問題が出やすい
業務ソフトは、一度導入されると長く使われます。
特に中小企業では、10年、15年と同じソフトを使い続けることもあります。導入当初は便利だったソフトでも、時間が経つと次のような問題が出てきます。
- 今の業務フローに合わない
- 改修したいが開発元が対応できない
- 担当者が退職して仕様が分からない
- データ構造や計算ロジックがブラックボックス化している
- 他のシステムやクラウドサービスと連携できない
- 古いPCや古いOffice環境でしか動かない
IPAのレガシーシステムモダン化委員会でも、レガシーシステムが新しいデジタル技術の活用を妨げる問題が整理されています。
古いソフトは、普段は動いているため問題が見えにくいです。しかし、PC入れ替え、Windows更新、Office更新、プリンター変更、社内ネットワーク変更のタイミングで、一気に問題が表面化します。
Windows 10サポート終了も見直しのきっかけになる
Microsoftは、Windows 10のサポートが2025年10月14日に終了したことを案内しています。サポート終了後は、技術支援、機能更新、セキュリティ更新が提供されなくなります。
このようなOS更新の節目では、古い業務ソフトに対して次の不安が出ます。
- 新しいPCでも同じように動くのか
- 32bit版Officeでしか動かないのではないか
- 古いAccess Runtimeが必要ではないか
- 帳票印刷やPDF出力が崩れないか
- セキュリティ上、古いPCを使い続けてよいのか
この段階で、単にPCを入れ替えるだけでは済まなくなることがあります。
そのため、環境更新のタイミングで「今の環境で動く代替ツールを作り直したい」という需要が出やすくなります。
生成AIは価格感と期待値を変えている
生成AIの影響もあります。
ChatGPTなどの生成AIが普及したことで、以前なら専用ソフトで行っていた作業の一部を、AIや簡易ツールで代替できるようになりました。
特に、次のような単機能ソフトは、利用者側の価格感が変わりやすいです。
- 汎用的な変換ツール
- 簡単な集計ツール
- 定型文作成ツール
- 単純なチェック、分類、抽出ツール
- UIの操作価値だけで差別化していたツール
利用者側には「これくらいならAIやExcelでできるのではないか」という感覚が出てきます。
一方で、開発者側もAIを活用することで、以前より短時間で小さなツールを作りやすくなっています。これにより、ソフトウェア開発の価格感や納期感も変わってきています。
ただし、ここでも「AIが主因」と断定するのではなく、AIは競争環境を変える要因の一つとして捉えるのが安全です。
市販ソフトでは合わない現場最適化ニーズ
開発請負の現場で特に感じるのは、市販ソフトでは対応しきれない細かい現場ニーズが多いことです。
市販ソフトやSaaSは、多くの会社で使えるように汎用的に作られています。その一方で、実際の現場では次のような要望が出ます。
- 会社独自の帳票がある
- 取引先ごとに出力形式が違う
- 既存のExcel台帳をそのまま使いたい
- 担当者が慣れている操作を大きく変えたくない
- 一部だけ自動化したい
- 社内ルールに合わせたチェック処理が必要
- 完全なシステム化ではなく、今の業務の延長で使いたい
このような場合、大規模なパッケージやSaaSを導入するよりも、Excel VBA、Google Apps Script、小型Webアプリ、Access、SQLiteなどで必要な部分だけ作る方が現実的なことがあります。
代替開発で最初に確認したいこと
既存ソフトの代替開発を相談された場合、いきなり画面や機能を丸ごと再現しようとしない方がよいです。
まずは、既存ソフトで実現していた業務を棚卸しします。
- 既存ソフトで行っている業務は何か
- 入力データは何か
- 出力データや帳票は何か
- 必須機能と不要機能は何か
- どの機能を日常的に使っているか
- どの機能はほとんど使っていないか
- データの保存形式は何か
- 過去データの移行が必要か
- 複数人で使うのか、1人で使うのか
- ローカルPCでよいのか、クラウド化が必要か
- 将来的な保守や改修をどうするか
この棚卸しを行うと、既存ソフトのすべてを再現する必要がないこともあります。
実際には、よく使う機能だけを残し、使われていない機能を削り、現在の業務に合わせて簡略化した方が使いやすくなる場合があります。
既存ソフトのコピーではなく業務要件の再設計にする
注意したいのは、既存ソフトの見た目や操作をそのままコピーしないことです。
画面デザイン、操作手順、帳票レイアウト、固有の名称などを無断で再現すると、著作権やライセンス面の問題が出る可能性があります。
実務上は、次の考え方が安全です。
既存ソフトの見た目をコピーする
ではなく
既存ソフトで実現していた業務要件を整理し、別の実装として再設計する
この進め方であれば、現場で本当に必要な機能に絞り込みやすくなり、開発費も抑えやすくなります。
また、既存ソフトの不満点も一緒に整理できます。たとえば、入力が多すぎる、帳票出力が分かりにくい、検索しづらい、特定PCでしか動かない、といった問題を、代替開発のタイミングで改善できます。
今後も小さな置き換え需要は続く可能性がある
既存ソフトの販売終了やサポート終了に伴う代替開発の相談は、今後も一定数続く可能性があります。
理由は次の通りです。
- 古い業務ソフトを使い続けている会社が多い
- 小規模ソフト会社の事業継続が難しくなるケースがある
- WindowsやOfficeの更新タイミングで問題が表面化しやすい
- 社内の業務フローが市販ソフトに完全には合わない
- 生成AIの普及により、ソフトウェアへの価格感や期待値が変わっている
- 既存業務を見直して小さく作り直す需要がある
特に中小企業では、いきなり大規模なシステムを導入するよりも、次のような小さな置き換えが現実的なケースも多いです。
- Excel VBAで既存台帳を改善する
- Google Apps Scriptでスプレッドシート業務を自動化する
- 小型Webアプリでスマホ入力や管理画面を作る
- AccessやSQLiteでローカルDB型の業務ツールを作る
- 既存Excel資産を活かしながら、必要な部分だけDB化する
この流れでは、開発請負側にとって、単にプログラムを書く力だけではなく、既存業務を読み解き、今の現場に合わせて再設計する力が重要になります。
参考情報
- 東京商工リサーチ: 「情報通信業」の倒産 11年ぶり400件超
- 帝国データバンク: 「ソフトウェア業」の倒産動向(2025年度、2月末時点)
- IPA: レガシーシステムモダン化委員会
- Microsoft: Windows 10 support has ended on October 14, 2025
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まとめ
既存ソフトの代替開発依頼は、AIだけで説明できるものではありません。
販売終了、保守終了、OSやOfficeの更新、古い業務ソフトのレガシー化、ソフトウェア業界側の事業継続課題、市販ソフトでは合わない現場最適化ニーズが重なって、表面化していると考えられます。
開発請負の立場では、既存ソフトをそのままコピーするのではなく、そこで実現していた業務要件を読み解き、今の現場に合ったツールとして再設計することが重要です。
